日本留学教育学会は、2026年度第4回大会として、「日本国際教育・共創シンポジウム」を開催した。本大会は、「日本の共生社会における国際高度人材教育と未来教育の新たな展望」をテーマに、国際教育、留学生教育、高度外国人材育成、AI時代の未来教育、ならびに日中教育交流の可能性について、多角的に議論する場として企画されたものである。

1. 開催概要
本大会の開催概要は以下の通りである。

2026年度 日本留学教育学会 第4回大会
日本国際教育・共創シンポジウム
テーマ:日本の共生社会における国際高度人材教育と未来教育の新たな展望
開催日時:2026年4月29日(水)9:00~17:00
開催場所:早稲田大学 小野記念講堂
主催:日本留学教育学会
運営:早稲田大学
協賛:名校教育グループ
参加対象:日中の大学・企業代表者、日本語学校関係者、教育研究者、高等学校関係者等
2. 大会テーマと開催趣旨
本大会は、VUCA時代と呼ばれる予測困難な社会状況や、AIの急速な発展を背景に、日本における多文化共生社会の形成と、国際高度人材教育の新たな方向性を検討することを目的として開催された。
少子高齢化、労働力不足、教育の国際化、AI技術の進展など、日本社会を取り巻く環境は大きく変化している。こうした状況のなかで、留学生教育や日本語教育は、単なる言語習得支援にとどまらず、国際的視野を備えた高度人材の育成、異文化理解の促進、さらには共生社会の基盤形成に深く関わるものとなっている。
本シンポジウムでは、「国際教育」「共生社会」「国際高度人材教育」「未来教育」「共創」を主要なキーワードとして、教育研究と実践の双方から、これからの国際教育のあり方が検討された。
3. 開会挨拶・趣旨説明

柳澤明氏(早稲田大学文学学術院長)
開会式では、オープニングムービーの上映に続き、主催者を代表して柳澤明氏(早稲田大学文学学術院長)より開会挨拶が行われた。
続いて、オンライン出席により、金中氏(西安交通大学日本語学科教授、中日詩歌研究所所長)から中国の大学代表として祝辞が述べられた。

金中氏(西安交通大学日本語学科教授、中日詩歌研究所所長)

鄧偉氏(日本留学教育学会理事長)
その後、鄧偉氏(日本留学教育学会理事長)より、「本シンポジウムの趣旨と国際教育の展望」と題する基調報告が行われた。報告では、本大会の問題意識、国際教育をめぐる現代的課題、ならびに日中間の教育交流と共創に向けた方向性が示され、参加者全体で大会の趣旨が共有された。
4. 各講演・報告の概要
本大会の基調講演フォーラムでは、4名の専門家が登壇し、国際教育、言語教育、異文化理解、AI活用による未来教育について、それぞれの専門的知見に基づく報告を行った。

講演1
「日中教育融合による国際人材育成の新機軸―これからの日本語教育へ―」
森山卓郎氏(早稲田大学文学学術院教授)

森山卓郎氏は、生成AI時代における言語教育の質的転換について論じた。AI翻訳技術が高度化するなかで、AIが対応を苦手とする構造的多義性の解釈や語用論的推理、人間の感性に基づく微細な意味理解の重要性が指摘された。
たとえば、「この図書館にはない本はない」といった二重否定の解釈や、実際の会話における「は、はい」のような冒頭音反復に伴うピッチ、間、ニュアンスの違いなど、言語運用における人間固有の判断や感性が取り上げられた。
また、これからの日本語教育においては、CEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)の行動中心アプローチを踏まえ、知識としての言語習得にとどまらず、実際のコミュニケーション場面で課題を遂行できる言語運用能力を育成することの重要性が示された。
講演2
「日中異文化人材育成の体系構築とモデル探究」
岡田昭人氏(東京外国語大学大学院総合国際学研究院 教授)

岡田昭人氏は、VUCA時代に求められる異文化人材育成のあり方について報告した。従来の知識や経験だけでは解決できない課題に対応するため、発見・解決力、コミュニケーション力、リーダーシップ、創造力、包容力といった新たな能力の必要性が提起された。
報告では、異文化交流における障壁として、ステレオタイプやスキーマの働きが取り上げられた。また、文化を理解する際には、言語や行動といった可視的な側面だけでなく、価値観、時間感覚、対人距離など、「氷山モデル」における不可視の部分に目を向けることの重要性が示された。
さらに、高コンテクスト文化と低コンテクスト文化の違い、表情、ジェスチャー、アイコンタクト、パーソナルスペース、時間概念、沈黙の意味など、非言語コミュニケーションにおける文化差が詳細に分析され、多文化共生に不可欠な異文化理解の理論的枠組みが提示された。
講演3
「AIのエンパワーメントによる未来教育視点の日中大学間連携新モデル」
岡田直樹氏(立命館大学宇宙地球探査研究センター)

岡田直樹氏は、AIが産業界のみならず、教育分野においても学習支援、教育運営、教職員の業務効率化などに大きな変革をもたらしている現状について報告した。
従来、大学間の国際連携においては、カリキュラムの共有、言語の壁、学生管理の複雑さなどが課題とされてきた。これに対し、AIシラバス・マッピング、多言語リアルタイム翻訳、AIによる学習伴走システムなどの導入により、国際連携における障壁を軽減し得る可能性が示された。
また、AIを活用することにより、日中大学間における共同カリキュラムの構築、ダブルディグリープログラムの推進、共同PBL(課題解決型学習)の実践などがより現実的なものとなることが論じられた。報告を通じて、AIを単なる効率化の手段としてではなく、教育機関間の共創を支える基盤として位置づける視点が提示された。
講演4
「AI教育と語学学習の融合―『76mへの探索』を事例に」
楊達氏(早稲田大学文学学術院教授)

楊達氏は、外国語教育における従来の課題を踏まえ、AIと記憶メカニズムを応用した「Dig学習システム」の実践成果について報告した。従来の外国語教育では、長時間の学習にもかかわらず、実際に「話せない」「使えない」という課題が生じやすいことが指摘された。
報告では、同システムの導入により、学習時間の短縮や中国語検定の合格率向上につながった事例が紹介された。また、第一言語がカテゴリ化、レトリック的思考、論理的思考へと発達していく過程を踏まえ、第二言語学習においても、生活場面や日常会話に根ざしたレトリック的思考を重視する必要性が示された。
さらに、初級の生活言語の習得から、労働市場への参加、普通教育、論理的・専門的な高等教育へと至る外国人材の成長モデルが提示された。これは、留学生や外国人材が日本社会に定着し、共生社会の形成に貢献していくための具体的な教育的道筋を示すものであった。
5. 総合討論・意見交換
大会後半では、各講演を踏まえ、パネルディスカッションおよび特別産学トークが行われた。
パネルディスカッションAでは、「国際教育と高度人材育成の針路」をテーマに、森山卓郎氏、岡田昭人氏が登壇し、鄧偉氏が質問者を務めた。言語教育、異文化理解、高度人材育成をめぐる論点が取り上げられ、国際教育が今後果たすべき役割について議論が行われた。


パネルディスカッションBでは、「AIによる国際教育のエンパワーメントと未来展望」をテーマに、岡田直樹氏、楊達氏、趙丹楠氏が登壇し、鄧偉氏が質問者を務めた。AI技術の教育活用、語学学習の変革、大学間連携の新たな可能性など、未来教育に関わる課題と展望について意見交換が行われた。


また、特別産学トークとして、「企業の視点:グローバル企業が新社会において若手人材に期待するもの」が実施され、石浩辰氏、穆秋実氏が登壇した。産業界の視点から、これからの社会において若手人材に求められる資質や、教育機関と企業との連携の重要性について考える機会となった。

石浩辰氏
北京算法之外科技有限会社 CEO&奇点観察責任者

穆秋実氏
前キヤノン(佳能中国)広報部長
6. 本大会の成果と意義
本大会は、「共生社会」「国際高度人材教育」「未来教育」「共創」という複数の視点を結びつけ、日本における国際教育の今後の方向性を検討する機会となった。
第一に、生成AIの普及という技術的転換期において、AIを単なる効率化の道具としてではなく、国際教育の可能性を広げる基盤として捉える視点が共有された。特に、日中大学間連携における言語、カリキュラム、学習支援、学生管理などの課題に対して、AIが新たな解決の糸口となり得ることが示された。
第二に、AI時代であるからこそ、人間が担うべき言語運用能力、文脈理解、異文化理解、非言語コミュニケーションの重要性が改めて確認された。AI技術の発展は、教育のあり方を変える一方で、人間同士の相互理解や共感に基づく教育の価値をより明確にするものである。
第三に、語学教育、専門教育、労働市場への接続、社会参加という一連の流れのなかで、外国人材の成長をどのように支援していくかという実践的課題が提示された。これは、留学生教育を日本社会の将来と結びつけて考えるうえで、重要な視座を与えるものである。
以上の点において、本大会は、留学生教育と高度外国人材育成を、共生社会の形成と未来教育の文脈のなかで再定位する意義ある機会となった。
7. 今後の展望
閉会式では、楊達氏による総括が行われ、今後の日中教育交流協力計画についても言及された。大会全体を通じて、AI時代における言語教育、異文化理解、国際的な大学間連携、産学連携の重要性が改めて確認された。
日本留学教育学会は、本大会で共有された知見と議論を踏まえ、今後も留学生教育、国際教育、高度外国人材育成に関する研究と実践を推進していく。国内外の教育機関、研究者、企業、関係団体との連携を深めながら、多文化共生社会の実現に資する交流と共創の場を継続的に創出していく。
